AIによって連結決算業務は激変する?

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前回、「AIによってITコンサルは要らなくなる?」という記事を書いたところ、いくつかお客様からも反応をいただきました。今回はもう少し具体的な業務に踏み込んで、「連結決算」について書いてみたいと思います。

経理・財務部門の方々とお話をしていると、最近はどこに行ってもAIの話題になります。特に連結決算は、グループ経営における最重要プロセスでありながら、多くの企業にとって毎月・毎四半期の悪夢のような存在でもあります。この領域にAIがどこまで踏み込めるのか、実務の現場を見てきた立場から率直に考えてみたいと思います。

そもそも、なぜ連結決算はこんなに大変なのでしょうか。単に計算が複雑だから、というだけではありません。親会社と子会社、さらには海外子会社まで会計システムがバラバラで、勘定科目のマッピングやフォーマットの統一だけでも大変な手間がかかります。グループ内での売買や貸付、配当といった内部取引を洗い出して相殺消去する作業も、件数の多い企業ではそれだけで数日かかることも珍しくありません。海外子会社が絡めば為替換算の問題や決算日のズレも出てきますし、税効果会計や少数株主持分の計算など、専門知識が必要な調整項目も山のようにあります。しかも困ったことに、こうしたイレギュラーな仕訳や調整の多くが、長年同じ担当者の「勘」と「経験」に支えられていて、その人が休むと途端に決算が止まってしまう、という会社も少なくないのが実情です。つまり連結決算とは、大量のデータ処理と高度な専門判断の両方が絡み合う、非常に厄介な業務なのです。

ここ数年で急速に進化しているAI技術は、この連結決算業務のうち、特に「作業」の部分に大きなインパクトを与え始めています。各子会社から送られてくるバラバラのフォーマットのデータを、AIが過去のパターンを学習して自動的に標準勘定科目にマッピングする、という取り組みはすでに現実のものになりつつあります。これまで経理担当者が一つひとつ手作業で確認していた「この科目はこっちの科目に対応する」という作業が、大幅に短縮されるわけです。内部取引の照合についても、本来はルールベースの処理であるはずが、表記ゆれや端数処理の違いで単純な自動化では対応しきれないケースが多かった。ここにAIの異常検知や自然言語処理の技術を組み合わせることで、「本来一致するはずなのに一致していない」取引を高い精度で拾い上げ、担当者に提示できるようになってきています。過去の仕訳パターンを学習させることで、いつもと違う仕訳や不自然な取引を自動的にフラグ立てすることも可能になってきました。これは決算の正確性を高めるだけでなく、不正会計の早期発見という意味でも大きな意味を持ちます。有価証券報告書や決算短信の注記のような定型的な文章作成についても、過去の開示内容や当期の数値をもとにAIがドラフトを自動生成する動きが出てきています。もちろん最終チェックは人間が行いますが、ゼロから文章を書く手間は大きく減ります。

ここまで聞くと、「経理部門は大幅に人員削減できるのでは」と思われるかもしれません。しかし、実務の現場を見ている立場から言うと、そう単純な話ではないというのが正直な感覚です。減損の兆候判断や、のれんの評価、税効果の回収可能性の判断など、会計基準の解釈と経営判断が絡む領域は、依然として高度な専門知識と経験を持つ人間にしか担えません。AIは過去のパターンから学習しますが、今期特有の経営環境の変化、たとえばM&Aや事業撤退、市場の急変といった事情を踏まえた最終判断は、人間が責任を持つべき領域だと思っています。

それに、連結決算の遅延の多くは、実はシステムの問題ではなく、子会社の担当者とのやり取りがうまくいかないという、極めて人間的な要因から生じているものです。特に海外子会社が絡むと、言語や商慣習の違い、決算に対する意識の温度差なども関わってきます。こうした関係構築やすり合わせは、当然ながらAIには任せられません。監査法人からの質問対応や、取締役会・経営会議での説明も同様です。数字の背景にあるストーリーを語れるのは人間だけであり、AIが出してきた分析結果を鵜呑みにするのではなく、それを咀嚼して自分の言葉で語れる経理人材こそが、これからますます求められるようになるはずです。グループ再編やM&A、新規子会社の連結開始といった非定型的なイベントへの対応も、過去データの学習だけでは太刀打ちできません。こうした「初めてのケース」への対応力にこそ、経験豊富な経理担当者の真価が問われる場面が残り続けると思います。

こうして考えていくと、連結決算の現場で起きているのは「仕事が無くなる」ことではなく、「求められるスキルセットの重心が移動する」ことなのだと感じます。これまではデータ入力や照合、単純な仕訳確認に多くの時間を費やし、正確に期限内に終わらせることが評価の中心でした。これからは、AIが出してきた結果の妥当性をレビューし判断すること、イレギュラーな事象への対応や会計方針の設計、子会社とのコミュニケーション、経営陣や監査人への説明、さらにはAIツールそのものの設定やチューニングを担う「AI活用の設計者」としての役割が求められるようになっていくでしょう。単純な作業者としての価値は相対的に下がり、判断者・説明者・設計者としての価値が高まっていく。これは経理部門にとって脅威であると同時に、これまで単純作業に忙殺されて手が回らなかった、経営分析や資金計画、グループガバナンスの強化といった、より付加価値の高い仕事に時間を使えるようになる大きなチャンスでもあると思っています。

弊社としてAI導入の支援に携わる中で、いくつか気をつけるべきだと感じている点もあります。AIの判断をそのまま鵜呑みにせず、必ず人間がレビューする体制を組み込むこと。特に会計基準の解釈が絡む部分は、最終的な責任の所在を明確にしておく必要があります。そして何より、AIがいくら優秀でも、元データの質が悪ければ正しい結果は出せません。グループ各社のデータフォーマットや勘定科目の統一といった地道な整備こそが、AI活用の本当の土台になります。いきなり全プロセスを自動化しようとせず、まずは内部取引の照合や異常検知など、効果が見えやすくリスクの低い領域から着手するのが現実的でしょう。そして、AIツールに使われる側ではなく、使いこなす側に回れる経理人材を育てていくことが、中長期的な競争力につながっていくはずです。

「AIによって連結決算は激変する?」という問いに対する私なりの答えは、作業のやり方は確かに激変するけれど、仕事そのものが無くなるわけではない、というものです。むしろ、これまで単純作業に忙殺されていた経理・財務部門にとって、AIは本来やるべきだった高度な仕事に集中できる環境を作ってくれる存在だと捉えています。数字の裏側にあるストーリーを読み解き、経営に資する提言をする。そうした本質的な仕事にこそ、これからの経理人材の価値が集約されていくのだと思います。

弊社でも、お客様の連結決算プロセスにAIをどう組み込んでいくか、日々試行錯誤を重ねています。この変化を単なる効率化ブームで終わらせるのではなく、グループ経営の質そのものを高める機会として捉えていきたいと考えています。

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